庭のハッサクが色づいて食べ頃である。この時期のハッサクは黄色に完熟しており、いかにもうまい。厚い皮は力を要するがなんとか剥けた。袋をひとつずつ外し種子を取り出して中身を口の中に放り込む。20分ほどで完食である。奇妙な達成感がある。
ところが、以前、ハッサクを剥いて食べられる状態にして冷蔵庫にしまい数日後に食べたが最後まで食べきれなかった。なんだか味気ない、面白くないのである。やはり「エンヤ、コラ」と気合を入れて向き合い「雨風に打たれて大変だったな、それで、こんな肌になったのか」「種子が多いな」とブツブツ言いながら食べるのが楽しい。つまり、食べるという行為に伴う途中の事柄がおもしろいのである。ここでは、面倒ながらも楽しい「剥く」という行為がすでに記憶の彼方なのだ。これでは、スーパーに並んでいるフルーツと同じでストーリーが分からない。
春の甲子園で鹿児島県代表の神村学園が初戦で勝利した。試合の終盤、2点のリードで迎えた9回、相手チーム・横浜高校が反撃し満塁となった。同点・逆転の可能性の場面が展開され、鹿児島県民のえびおじさんは祈るような気持ちである。その時、一緒にテレビを観ていたえびおばさんがある言葉を放った。「横浜、打て!」である。びっくりして尋ねると「だって、その方が面白いじゃない!」と答えた。どんな形でも構わないから一刻も早く勝利を得たいえびおじさんとしては大いに違和感を持ったのである。えびおばさんももちろん神村学園を応援しているのだが、勝利とともに試合の途中をさらに楽しみたかったのだろう。ひょっとしたら、えびおばさんは人生の達人かも知れない。
野球の求道者のようなイチロー選手が「大事なことが簡単に獲得できたら面白くないじゃないですか」と日々の鍛錬の大切さを語っていた。薄皮をめくるような努力の先にしか勝利はないことを彼は分かっていたのだ。そして、その努力を楽しんでいる。
ボタンを押したらすぐ解答がでてくるようなご時世だが途中経過<プロセス>がいちばん大切かもしれない。むしろ、そこで発見することも多いわけで、ある意味、ものごとの本質はそこにあるのかもしれない。
ある女優が、さらに次のような言葉を投げかけて私たちを鼓舞している。「楽しむだけじゃなく面白がるのよ!」。「面白がる」は人をからかう時のふざけた言葉とばかりに思っていたがどうもそれだけではなさそうである。女優によれば、単に楽しむのではなく、より積極的な姿勢でものごとに接して本質に迫ることが「面白がる」ことなのだという。それは遊び心でもあるのだろう。
えびおじさんの友人のひとりは「恋愛の達人?」だが、彼によれば「時間がかかり面倒だからこそ恋愛は楽しいのだ。簡単にいくと面白くない。むしろ、手強くて時間がかかる方が楽しめる」と。恋愛の達人ならぬ、恋愛の猛者である。<えびおじさん>

大きく育ったクルマエビ 本文とは全く関係ありません!
