2022-07-11
まるで、戦闘機が空母から発艦する直前のようである。そして、昭和40年代のテレビの人形劇の「サンダーバード」のイメージとも重なる。
そういえば、人形劇の「サンダーバード」は、番組のテーマ音楽もカッコよかったが、分らないことがひとつあった。「THUNDERBIRDS ARE GO」とのナレーターの言葉である。中学で英語を習いたてのえび少年は、どうしてbe動詞のあとに動詞が来るのだろう。英語のM先生が教えたのとちょっと違うゾ。それとも、本場の英語では使うのだろうかと不思議に思っていた。思っただけでなく、湧き上がる疑問を解決しようという意欲が少しでもあれば、今ごろ、えびおじさんは、ただのえびおじさんではなく「えび博士」だったかもしれない。長年の疑問が解けたのはつい最近である。なんでも、GOは動詞だけでなく形容詞もあって「準備OK」の意味らしい。つまり「サンダーバード 準備完了」ということである。
さて、本題はそのことではない。この戦闘機のようなものは、宇検集落に住む出水秀也さんが竹で作った、川えびの「手長エビ」だ。いわゆる竹細工である。えびおじさんは立場上「どうして車えびではないの?」と尋ねてみたが、手が長い方が迫力満点とのこと。ウ~ン、確かに車えびは、髭(ひげ)は長いが手足は短い、ちょっと迫力に欠けるか。それにしても、みごとな手長えびである。
出水さんは55歳。村内の建設会社の生コンの品質検査を担当する技師だが、休みの日は竹細工作りを楽しんでいる。もともと手先の器用な出水さんである。去年の1月から作り始めて、これまでに40体の「手長エビ」を作った。
作るところを見せてもらった。山で探してきた、ほどよい太さの竹をカッターナイフで削っていく。出水さんによると、手長エビの「腹」の部分が一番難しいらしく、竹が折れないように慎重にきれいなカーブを作っていく。そこができると残りはわりとスムーズにいく。釣り道具のウキ止めで目をつけ色を塗って完成である。この間、約1時間。出来上がった作品を眺めながらのビールは至福のひと時である。
竹細工作りの原点は子供時代にある。出水さんは奄美大島のすぐ南に位置する加計呂麻島(かけろまじま)で生まれ育った。通った小学校は全校生徒が18人ほど、同級生は3人だった。近くにはおもちゃなどの店もなく、山や海で遊ぶ日々である。そのような中、目覚めたのは、自分で遊び道具を作ることだった。なんでも作った。紙鉄砲や凧(たこ)はお手のもの、真珠の養殖場で不要になったロープを編んでハンモックを作りガジュマルの枝にくくりつけて昼寝を楽しんだり、木を削って弓矢を作りバナナの木を射って遊ぶなど、まるでロビンソン・クルーソーの世界だった。
えびおじさんも紙鉄砲くらいは作ったがハンモックなどは想像の外である。お金で何でも手に入る街なかの子供たちとは違い、そのような環境で育った出水さんにとって、自分で作る以外に手段がないことが、むしろ想像力と創造力を養うにうってつけだったのかもしれない。
出水さんに限らず、子供のころに作った遊具は大人になっても心惹かれるのが不思議である。私の友人は落下傘<パラシュート>を作ったそうである。ビニール袋と木綿の糸、そして、道端に転がっている石をおもりにして「エイ、ヤッ!」と投げていたそうである。さすがに今はしないが、印象深く心に刻まれているとか。
えびおじさんの願いは、手長えびほどの勇猛さはなくてかまわないので、かわいい車えびの竹細工を作って欲しいのである。しかし、出水さんが、最近、はまっているのは「カラスの餌付け」だそうでスマホの映像も見せてもらった。いったい何をたくらんでいるのだろうか。また、廃材を使ってハブ箱(捕まえたハブを入れる箱)や灰皿を作るなど、細工物の範囲は広がっているようだ。目の離せない人である。 <えびおじさん>