道路脇の月桃の花が開き始めている。うつむきかげんに楚々とたたずむ姿に今さらながら好感が持てる。空はやや曇りがち、湿り気を帯びた南よりの風が強く吹いてきた。5月21日(火)に奄美と沖縄地方は梅雨入りした。いつもより少し遅い。これからひと月ほどは雨の季節である。
持論というほどのことでもないが「ビールは明るいうちに吞むもの」と決めている。ビールはアルコール度数5%ぐらいである。こういったライト感覚の酒は暗くなってからよりもむしろ少々明るいうちの方が似あいそうだ。もちろん、人によりけりに違いない。
呑み始めはだいたい5時半頃。この季節の5時半はまだ陽が高い。しかし、明るさゆえの罪悪感も、缶ビールを1本空けるころには消滅してしまう。宇検集落の銀座通り( と、えびおじさんが呼んでいる )にある宇検商店の長椅子に数人がたむろして宴が始まる。いわゆる「今日の反省会」というヤツである。ただの酒吞み会というなかれ、「 今日はこういうことがあった 」という情報交換のときであり懇親をさらに深める社交の場でもあるのだ。
以下は、えびおじさんの今日のできごとである。
昼過ぎに養殖場の近くを散歩していて、ふと見上げた山の中腹に2頭のヤギがいた。草を食べている様子だ。1頭はこちらの姿を見てあわてて森の中に駆け込んだ。しかし、もう1頭はこちらに気づかないのかどうか、逃げる気配はまったくない。えびおじさんを無視しているのかもしれない。黙々と食事を楽しんでいる。
野生のヤギである。デカい。100キロ近くあるだろうか。えびおじさんの家でも昔 ( 昭和30年代 今から60年ほど前 ) ヤギを飼っていたことがあるが、こんなに大きくはなかった。異なる種類なのだろう。角(つの)がこれまた立派だ。じゃまにならないのか。ひげもはやしていて王者の風格である。山の中腹から睥睨 ( へいげい ) してゆとりたっぷりだ。何歳ぐらいだろうか、語りかけたくなる。童謡の「やぎさんゆうびん」が思わず口をついて出てきた。また「アルプスの少女ハイジのヤギ」の画像も浮かんできた。しかし、そういったかわいらしさのレベルではない。崖を駆け下りて向かってきたら、ひとたまりもあるまい。
ひとつ疑問が湧いてきた。このあたりにはハブが生息している。山の中での生活でハブに噛まれる心配はないのだろうか。ヤギの方が強いのか、それとも、うまく共存しているのか ? あれこれ考えているうちに森の王者は食事を終えて山の中に帰っていった。
缶ビールはすでに4本空いてしまった。宇検集落にも少しずつ夕闇が迫っている。