だんだんと暖かくなって、寒さで縮こまっていたえびおじさんの腰が少し伸びてきました。今回は、えびおじさんの友人の豊倉真奈美さんが、宇検養殖での職場体験談や村での思い出を語ってくれました。
「えびはおるけど、人がおらん、ひまだろ」。退職して気ままなセカンドライフを満喫していた私に、そう声をかけてきたのが“えびおじさん”だった。宇検養殖場の繁忙期は年末。贈答・おせち用の車えび出荷がピークを迎えるが、昨今の人手不足で猫の手でも借りたいとのこと。その時、鹿児島市の居酒屋でごちそうになっていた私は断る理由もなく「これは自前の“おてつたび”だ」と軽いノリで、奄美大島宇検村へ2024年の年末、アルバイト旅に出発した。
※「おてつたび」とは 。「お手伝い」と「旅」を組み合わせた造語で、旅先で地元の産業に関わることで人手不足解消に役立ち報酬も得られる。また、地域の魅力に深く触れられるというメリットもある。
奄美大島の南部、宇検村は山が海まで迫り山と海の間に14の集落が点在している。いくつかの商店はあるがコンビニはない。人口1600人の小さな村だ。世界自然遺産のおひざ元に広がる焼内(やけうち)湾は、凪いだ日は湖のように静かで、思わず両手を広げ深呼吸してしまう。そんな場所に宇検養殖場はある。聞くところによると、ここの車えびは、自然の海水をそのまま引き込んだ“海洋牧場”育ちだそうだ。人の手で管理されながらも自然とともに生きているえびたち。その出荷の現場を、私はほんの数日間ながら体験することになった。
私が担当したのは、出荷に向けての活き車えびの箱詰め作業。養殖場から水揚げされたえびは、特大から極小まで大きさで分けられ、サイズごとに1キロずつ箱詰めしていく。箱の底に柔らかいシートを敷き、時々暴れるえびをそっと押さえながら向きをそろえて詰めていく。さらに上からシートで包み、すき間には新聞紙をクシャっと丸めて詰めて固定。えびの数は箱ごとに違うので、箱の外側には数を記さなければならない。立ちっぱなしで、しゃべる暇はない。というより、しゃべっている場合ではない。みんなの頭の中は、えびの数を高速で数えている。私も「に、し、ろっぱ…」と間違えないよう全集中。手早さと丁寧さが肝心だ。
東京・豊洲市場へその日のうちに空輸するため取り上げは朝4時から始まる。9時には奄美空港へ向かうトラックに積み込まなければならず、作業場は常に時間との勝負。アルバイトの私と、ベテランスタッフの作業の速さは、雲泥の差だ。本当に数えているのだろうかと疑いたくなるほどの電光石火の早業(笑)。私の手の中では暴れまくるえびも、ベテランの手にかかると観念したかのように素直に箱へ収まっていく。超初心者の私は昨日よりひと箱でも多く詰めたいと、新聞紙の置き方、数え方、ガムテープの切り方を工夫し、ささやかな自己流の改善を重ねる。日に日に箱数が増えていくのがただうれしい。
休憩時間には、地元の人たちから昔話を聞いた。宇検村は、焼内湾に沿って小さな集落が点々と続いている。昔は結婚相手を隣の集落ではなく、湾の対岸に見つけることが多かったというのだ。「隣だとねえ、子どものころ何をしてたか全部知られてるからね」そう言ってみんなで大笑いになる。良いことも悪いことも丸見えの隣より、船で会いに行く対岸のほうがロマンティックだったのかもしれない。笑いながら聞いているうちに、何だか親戚を訪ねてきたようななつかしい気分になる。宇検養殖は40年の歴史があるそうだ。「うちのばあちゃんも箱詰めしていたよ」と話す人も少なくない。車えびの仕事は、時間とともにこの村の日常の一部になっている。
昼ごろに作業が終わると宿へ戻る。私が泊まっていたのは、空き家をリノベーションした一軒家で、ふだんは集会所としても使われている『みんなの家』。仕事終わりのコーヒーは至福のひとときだ。この時に想像したのは「えびの行方」。どんな料理人が腕をふるうのだろう。誰かの記念日だろうか、それとも静かな晩酌だろうか。活き車えびは少々高級だ。だからこそ、その人にとって「いい時間」をつくる一皿になって欲しいと願う。宇検養殖での箱詰めアルバイトはほんの数日だったが気分だけはすっかり「えびおばさん(見習い)」になっていた。



上・中 箱詰めに励む豊倉真奈美さん 箱に収まったえびたち
下 宇検養殖場近くの船越海岸(ふなこし海岸 地元の人は ふのし 海岸 と呼ぶ)
