2022-04-06
自分のことばかり書いてきたので、今回は宇検村のことを書いてみたい <本来はそれが目的なのだが・・・>
宇検養殖の敷地の隅っこに植わっていたガジュマルの樹が、道路の拡幅( かくふく )工事のために移転を余儀なくされ、このほど、およそ10キロ離れた湯湾集落の広場に植え替えられた。
ガジュマルの樹は30年ほど前に宇検養殖の敷地に植えられた。奄美の暖かい気候のおかげですくすくと育ち、夏の暑さや冬の風にも耐えて養殖場のシンボルツリーとして従業員や近隣の方々からも愛されてきた。また、長い間、宇検養殖の様子を見守ってきた樹でもある。
高さ5メートルほどの、こんもりとした樹はほどよい木陰を作っていた。夏の暑さを避けて木陰で昼寝も楽しめた。枝をねぐらとするキノボリトカゲたちは心地良い時間を過ごしていたことだろう。ガジュマルは生育旺盛な樹である。枝から気根<きこん>を出して、地面に根を降ろしたり別の枝に根を張ったりもする。枝と枝が絡み合い喧嘩状態にもなったりする。えびおじさんは、ドシロウトながら剪定作業に勤<いそ>しんだものだ。
3月の暖かい日、ガジュマルはトラックで運ばれて行った。たとえ樹木であっても、いざ、なくなってみると心にポカンと穴が空いたようで寂しいものである。ご神木という存在ではなかったが、跡地にお神酒を撒いた。
30年も住んだところを去るわけだから、えびおじさんとしては嫁に出すような気持ちである。ガジュ・マル子も心残りだったに違いない。「辛かったら戻って来いよ!」と近ごろの親なら言いそうだが、樹木は簡単には戻って来れない。一生をそこで過ごすことになる。
嫁ぎ先に行ってみた。ずいぶん広いところである。周囲には図書館や消防署、食堂やコテージもある。そして、この春には、村の特産物を販売する市場もできた。人や車の往来も多い。ガジュ・マル子は慣れぬ場所に少し戸惑いの表情だったが広場の真ん中にどんと座っていた。これからはここのシンボルツリーになるのである。
ガジュ・マル子は慣れない場所に来てしまった。一緒に遊んでいた鳥たちやキノボリトカゲそしてケンムンはどうしているだろうか。ケンムンは奄美に伝わる妖怪<妖精>だ。山の中の大きなガジュマルに住んでいて、ときおり、ガジュ・マル子のところに遊びに来ていたらしい。彼らは、皆、寂しがっていることだろう。
キノボリトカゲは遊びに行けないが、鳥やケンムンはやって来るかもしれない。近いうちに懐かしい再会があることだろう。えびおじさんもときどき遊びに行こう。 < えびおじさん >
上:養殖場にあった頃のガジュマル
下:湯湾集落の広場に引っ越したガジュマル。この日は「FMうけん」主催の祭りでにぎわっていた。