2021-11-19
夏の暑い日、えびおじさんの車の中に小さなヤモリがいた。ドアを開けると座席からスルスル~と床に逃げていった。その後、2回ほどお目にかかったが、引っ越したという噂を聞かないから、ひょっとしたら、まだいるのかもしれない。
どこから入ってきたかは分かっている。養殖場の敷地のガジュマルの樹の陰にいつも車を停めるのだが、風通しをよくするために窓を少し開けておく。
人間たちの乗る車とはどういうものかと少し冒険心が湧いたのだろうか。夏場のこと、エアコンの涼しさの余韻を求めたのかもしれない。
棲みついているとしたらいったい何を食べているのだろうか。本によれば、ヤモリはシロアリや小さなゴキブリをエサとしており、且つ、生きたものしか食べないとある。う~ん、えびおじさんの車にはそんなものもいるのか!確かに、ミカンの食べ残しを座席に置きっぱなしにしていたら、シロアリではなかったがアリが群がっていたことがある。奄美大島の生き物たちは貪欲に旺盛に生きているのだ。
名は体を表すというべきか。ヤモリは家守であり、家を守ってくれるということらしい。シロアリやゴキブリの害虫を食べるありがたい存在なのである。
しかし、えびおじさんは爬虫類が苦手なのだ。実物でなくテレビの画面であっても後ずさりする。あの体をクネクネさせる動きにどうもついていけない<アラブのベリーダンスは好きだが>。そしてペロンと舌を出す。あ~、もうたまらない。爬虫類仲間のハブと違って青大将やトカゲは人間に危害を加えない。分っているのだがそれでも「ヒヤ~~」と叫んでしまう。彼らこそ悲鳴を上げる人間にびっくりしているに違いない。車内のヤモリにさほど驚かなかったのは小さかったためで、大人のヤモリだったら大慌てだったことだろう。
ペット愛好家にイヌ派とネコ派がいるように、世の中には、どうも爬虫類が苦手な人と蜘蛛が苦手な人がいるようだ。えびおじさんの周りではどちらかにはっきりと分かれるから面白い。えびおばさんは「蜘蛛」と聞いただけで身震いする。爬虫類が苦手のえびおじさんだが、蜘蛛についてはどんなに大きくてもまったく動じない。唯一の自慢である。爬虫類が大好きな人の中には、ヘビを首に巻きつけて平気だったり、えびおじさんの知り合いには家の中でヘビを飼っているのがいる。どんな種類のヘビか聞く気にもなれない。「かわいい顔をしてますよ」と飼い主は言うのだが・・・
聞くところでは、学術的なレベルで、クモ恐怖症(アラクノフォビア)やヘビ恐怖症(オフィオフォビア)というものがあるそうだ。どちらも異常な恐怖心を抱くとある。分る、分る。これからは、会う人ごとに尋ねてみることにしよう。
奄美の夜はにぎやかだ。人間たちの宴を聞きつけて、森の中からは鳥や獣のさまざまな鳴き声が聞こえてくる。満天の星空である。家の中ではえびおじさんが寝たのを見計らってヤモリが「キキキ~、kikiki~」と自己主張を始めた。なにかのはずみで天井から落ちてこないようにと念じながら眠りにつくのである。
<えびおじさん>