2021-08-10
いつのまにか庭に居ついてしまった黒猫クロちゃんである。今や、当然といった表情でエサを食べて庭を駆け回っている。猫の額ほどの庭は、突然現れた国籍不明の黒い猫によって不法占拠され、家主は、その可愛さに為す術<すべ>もなく泣き寝入りさせられているのだ。よくよく考えてみればこんな理不尽なことはない。要求されたらなかなか反論できず最後は情にほだされてしまうえびおじさんの性格を知っていたのかもしれない。だとしたら、子猫ながらも情報収集が巧みでありなかなかの策略家である。
最初のうちは、えびおじさんが差し出すドッグフードを遠慮がちに食べていたが、今ではキャットフードを堂々と要求し完食するまでになってきている。もっとも「犬も猫も同じだ、ドッグフードで満足するだろう!」とぞんざいに扱ったえびおじさんの勘違いもある。犬と猫とでは食の好みがまったく違うことがよく分かった。ドッグフードを食べ残すさまを遠慮深いと勘違いしていたのである。さつま揚げをやってみた。こちらもよく食べる。考えてみると元は魚だ。
キャットフードに飽き足らず狩りをする。セミや蛾<が>を捕まえて食べるのだ。すばやく蛾を捕らえて口にする瞬間をえびおじさんは見た。えびおばさんは、セミを捕まえるところやトカゲのしっぽらしきものを咥えている姿を見かけたという。これらの行為は食糧調達とともに「獲物は捕まえるべきもの」という動物本来の能力を発揮しているのかもしれない。
えびおじさんが庭の木の剪定をしていると目の高さまで木登りしてきて「ほら、登れたよ!!」と誇示する。そのくせ、下りられなくなって、しまいには転げ落ちてしまう。しかし、めげずにまた登ってくる。走るのも速い。狭い庭を、えびおじさんに先回りして走っていき待っている。健啖<けんたん>家であり冒険家でありスポーツマンでもあるのだ。
なかなか器量良しで小顔で足がすらっと長い。腰を撫でやると少しばかりシナを作るのだ。これらのことから女の子とばかり思っていたがそうではなかった。えびおばさんは「暴れぐあいから男の子と踏んでいた」と先見の明を自慢する。
テレビの動物番組が人気だ。犬や猫の愛らしいしぐさは微笑ましい。特に小さい頃の動物は表情が豊かである。見るもの触れるものがすべて珍しいのだろう。私たち人間を和ませてくれる。
それにしても、知りあいが教えてくれた「黒い猫は穏やかで人懐っこい性格」はズバリ的中している。触れさせてもくれなかったくせに今はすり寄ってくる。目やにも取らせてくれる。「家の中に入れてよ」とせがんでくるが、座敷犬のベリーと折り合いがつけられるか、ただ今、思案中である。 <えびおじさん>
※闖入<ちんにゅう>:無断で入り込むこと