2022-06-09
ひと月ほど前から胸のあたりが重い。重苦しさが周期的にやって来る。大ざっぱな性格だから「心の病」はあろうはずもないし「老いらくの恋」などの色恋の悩みも縁遠い。重苦しさは精神的なものではなく、まさしく肉体そのものに基づくものだ、いずれ良くなるだろうと高を括っていたがいっこうにその気配がない。部位が部位だけに少し心配になってきた。「心臓は循環器系だな」とつぶやきつつ近くの病院に行くことにした。
同じくらいの年齢のおじさんや、おばさんが待合室に大勢いる。問診票に症状を書き込んで待つこと10分。手慣れた女性の看護師さんが対応してくれる。飛行機のキャビンアテンダントもそうだが、安心・安全、命に関わるような場面では、こういったベテランの担当さんだと妙に安心する。
身長・体重の測定に始まり、血液検査、心電図、レントゲン検査、小型の階段状のものを3分間上り下りする検査など、およそ1時間かけて検査は終了した。
データを見た医者(男性)曰く。
「特に悪いところはありませんが、何のお仕事をされていますか?」
「車えびの養殖を手がけています」
「で、どんな作業なのですか?」
「(あまり)若くないので体力的に無理なことはせず、養殖池から取り上げた車えびを箱に詰める作業です。力仕事などは若者たちがきちんとやってくれます。時々の手伝いレベルです」
などのやり取りのあと医者が結論を下した。それによれば「うつむき加減で長時間の立ったままの姿勢は心臓付近の筋肉に負担を与えます。大して心配は要りません」である。
当方、「へ~~e!」である。重篤(じゅうとく)な病を覚悟していたので拍子抜けするような診断結果である。で、医者が提唱する対策は「時おり体を後ろに反らして、ふんぞり返るようなしぐさをしてください。胸の筋肉を緩めるのです」である。
ふんぞり返るほど偉そうにするつもりもないのだが・・・。 だいたい車えびは丸みのある姿勢で謙虚そうだし、えびおじさんもその通りである。座右の銘も「謙虚に耳を傾け心は丸く!」である。でも、ときおり、ふんぞり返ってみることにしよう。
さらに医者曰く。「ラジオ体操が一番です」
これもまた「HE~~エ!」である。やっぱりラジオ体操が基本なのか。振り返ってみると、このところ「第二」はおろか「ラジオ体操第一」にもトンとご無沙汰である。そういえば、ラジオ体操の放送の中でも「胸を反らして」と確かに指導している、「ふんぞり返って」とは言っていないが。ラジオ体操の大切さを改めて痛感した次第である。
検査の結果では体重は不変ながらも身長は若いころに比べて5センチも縮んでいる。ただし、8000歩以上を課している毎日のウオーキングが功を奏してか、血管の柔らかさ(硬さ)は年齢に比べて10歳以上若いとお墨付きをもらった。加齢に伴って身長は縮むと聞いていたがその通りである。そして体の柔軟さは年を経るごとに失われていくようだ。
尋ねることもしなかったが病名はあるのだろうか。えびおじさん流に命名するならば「えび詰めうつむき作業に伴う老人性胸部圧迫」といったところか。薬の処方も当然なかった。無罪放免を宣告してくれた男性医師と女性看護師が神様や天使に思えた一日であった。 <えびおじさん>
梅雨空の下、「イジュ」の白い花が咲く。イジュは宇検村のシンボルツリーでもある。