2023-04-20
東京湾に沿って「東京湾岸道路」という道路がある。交通情報などでよく耳にするので馴染み深いことと思う。片や、えびおじさんの住む奄美大島・宇検村にも湾岸道路が存在する。もっとも、こちらの方はえびおじさんが「湾岸道路」と勝手に決めつけているだけで、村の人に尋ねてもキョトンされるだけだろう。
地図を見ていただければお分かりになるだろうが、奄美大島の南西部に位置する宇検村には、東シナ海から鋭く切り込む「焼内湾(やけうちわん)」がある。この湾に沿って北側と南側に、集落をつなぐ県道が走っており、湾奥部の湯湾(ゆわん)集落で両者はつながっている。えびおじさんはこれを「焼内湾岸道路(やけうちわんがんどうろ」と名付けている。
奄美大島の中でも風光明媚な場所のひとつとして知られている焼内湾は複雑に入り江が重なっている。当然のように、湾に沿った「焼内湾岸道路」はクネクネ道路である。クネクネ道路は確かに移動に時間がかかるが、スラリと伸びた直線道路より楽しい。直線道路はあまりにも先が見えすぎて面白くないのだ。そして、また、ある人に言わせると、自然界には直線というものはなく、自然が作ってくれた曲線の造形美はゆとりと癒しを人々にもたらしてくれるそうである。脚線美もそうかな、といらぬことを思い出した。
湖や池ではなく湾だから1周することは叶わない。湾を囲むように、端から端まで距離にしておよそ20キロだろうか。中間に位置する湯湾集落はどちらからも10キロほどである。
「焼内湾岸道路」の北側を車で走ってみる。端っこの宇検集落を出発して、久志(くし)、生勝(いけがち)、芦検(あしけん)、田検(たけん)、湯湾集落とつながっている。緑の山々と波おだやかな焼内湾である。この景色には、おだやかな「岬めぐり♪」が似合いそうだが、テンポの良い「真夏の出来事(^^♪」もお薦めだ。それから「FMうけん」から流れてくる島唄も乙なものである。全国的に有名な島唄以外にも多くの島唄が存在することを教えてくれるのも地元のラジオならではである。ちなみに「岬めぐり♪」の舞台は三浦半島だと最近知った。房総半島だとばっかり思っていた。
「東京湾岸道路」のことは実のところ詳しくは知らないのだが、「焼内湾・・・」の車の通行量はおそらく「東京・・・」の数百分の1だろうか、いや、もっとかもしれない。20分ほど走っても1台の車にも出会わないことがある。宇検集落から湯湾集落までの間に信号機は1基である。「急がずあわてず、風景を楽しみながら、ゆっくり走りましょう」とアカショウビンやハブが語りかけてくる。
マスクが外れたこともあって世界自然遺産・奄美大島への観光客が増えており、「焼内湾岸道路」でもレンタカーをときおり見かける。観光客にとっての道路でもあるが重要な生活道路でもある。以前はこの道路はなく、住民は不便をかこっていた。それまでの生活の足は船であり、隣の集落へは山道もあったが離れた集落へは船を使っていたとのことである。それが、50数年前に現在の道路ができて交通手段は一変した。車社会が到来したのである。
先日は定期バスに乗ってみた。午前9時15分、宇検集落始発。本日の第2便である。10人乗りほどのマイクロバスに乗客はえびおじさん1人である。ずっとこのままかと思いきや、そんなはずもなく、芦検から数人の女性と男性一人が乗ってきた。にぎやかにおしゃべりが始まる。ひとりの女性が「今日は役場に行く用事がある」と言えば男性は「床屋に行く」と応じる。女の子が「この春、高校を卒業して関西の学校に行く」と話すと、皆が「偉いねエ、頑張って」とエールを送る。エールの中で、島唄のひと節(ふし)が女性から飛び出したのには驚いた。島には、島外の学校に進学したり就職するとき、空港や港で盛大に見送る習慣がある。「島立ち」である。バスの中も、瞬間、その空気が味わえた。
鹿児島県本土よりひと月早く季節がやって来る奄美大島である。湾岸沿いの山々の緑もすっかり落ち着いてきた。「焼内湾岸道路」にはランニングを楽しむ人の姿も見られる。まもなく雨の季節である。
(えびおじさんの願い)定期バスとは別に「焼内湾岸道路」を周遊する行楽バスを走らせてはいかがだろうか。島唄を聞きながら歌いながら夕陽を眺めながら、ビールを、黒糖焼酎を・・・ やっぱりこういう話になってしまった。
テイキンザクラ<提琴桜 湯湾集落>