寒さがやわらぐこの時期になると、つい口ずさんでしまうのが「津軽海峡冬景色」である。厳冬の荒涼とした風景は真冬に歌うのがふさわしいのかもしれない。しかし、それでは、年よりのえびおじさんは心身ともに凍えてしまう。思いを馳せるには今頃がちょうど良いのである。
タイトルが気に入っている。漢字7文字で、余分なひらがなやカタカナを含まず、潔さを感じる。漢詩の世界だ。これだけで風景が立ち上がって来る。
この歌は今から50年近くも前の昭和52年に発売された。冬の津軽海峡の風景と女性の気持ちを重ね合わせて、昭和の名曲である。
冒頭の「上野発の夜行列車おりた時から青森駅は雪の中・・・」である。このわずかばかりの歌詞に「上野駅から青森駅までのおよそ700キロの距離、所要時間8時間あまりという長い時間がみごとに表現されている」と驚嘆した批評家がいた。確かに、この部分は場面転換の連続である。上野駅のホーム、夜行列車の車内、吹雪の青森駅に降り立つ姿。映像がくっきり浮かんでくる。
このころはまだ東北新幹線はできていない。乗ってきたのは上野駅と青森駅を結ぶ東北本線の列車に違いない。常磐線経由の列車もあるにはあるが、ここは東北本線と見た方がよいだろう。
この夜行列車は、寝台特急、座席急行列車のどちらだろう。寝台特急は横になって眠れるから疲れはあまり残らない。座席急行は座りっぱなしなので疲労困憊(こんぱい)かも知れない。ただ、女性についての表現が少ないので確定はできない。
女性は数年にわたる都会生活に疲れ果て、ある事情から男性に別れを告げて、ふるさと北海道に帰っていく。男性は見送りに来なかったのだろう。しかし、どろどろとした女の情念はなく「帰ります」とだけ歌っている。これがまた泣けてくる。
どうも、えびおじさんの空想は少し過ぎるようで妄想に近い。
人間たちのさまざまな事情はともかく、この歌のすばらしさは、雄大な津軽海峡と厳冬の荒れた海の光景である。海鳥も吹き飛ばされそうである。西高東低のキツイ気圧配置だろう。南国生まれのえびおじさんには想像もつかないが、言わば、台風の北国版だ。歌っているのは、北国出身ではなく南の熊本出身の女性歌手である。みごとに北国の冬の光景を歌い上げている。
半世紀を経て、えびおじさんの体に染みついてしまった「津軽海峡冬景色」である。奄美ではもうアカショウビンが鳴き始めている。津軽海峡にも春がそこまでやって来ているのだろう。<えびおじさん>
宇検集落の春