鹿児島市の自宅には、友人からもらったデジタルの卓上時計があり温度計と湿度計が備わっている。気象台の発表ほどの精度はなくても生活の目安として重宝している。
梅雨の晴れ間の月曜日の朝。雲の合間から青空がのぞき始めている。時間が経つにつれ気温が少しずつ上がっていく。一方、玄関も窓も開けているが風がまったくないので湿度は下がる気配がない。陽が昇り始めて2時間ほどしてようやく風が出てきた。徐々に強くなって、大きく開けた玄関からたっぷりの風が吹き込んで廊下を伝って反対側の窓に抜けていく。朝方は70%だった部屋の湿度が徐々に下がって昼過ぎには50%を切った。べとつき気味だった廊下がすっきりしている。「風神様 ごくろうさま」である。
「風が吹くと桶屋がもうかる」という。もうかるまでの成り行きを思い返してみるものの途中でこんがらがってきた。昔の人はよくぞこのような理屈を考えたと感心する。南九州にもいよいよ梅雨明け宣言が出されるかと心待ちにしていたが、今日は見送りのようである。晴天が続くという保証がまだないのだろう。政治も天気も先のことはおぼつかない。
風が吹き抜ける廊下に寝ころがっての読書である。冷房をあまり好まないえびおじさんには至福のひとときである。読んでいるのは、ネコ好きの著名人たちによるエッセイ集だが、かたわらに愛犬ベリーがやって来てフンフンと鼻を鳴らしている。「ネコの本とは!イヌ派ではなかったのですか?」ととがめられる。「たまたま、読んでいるだけだよ」と軽くかわすが納得するようすはない。猜疑心の強いところはまるで猫のようである。ビスケットでもやって機嫌取りをするとしようか。
休みの日でもないのに、朝から愛犬と読書三昧とはなにごとだろう、まさか・・・! その「まさか」である。2度目のコロナにかかったのだ。またまた油断だった。居酒屋の細長~い部屋に10人余り。ある会合の打ち上げだったので盛りあがりに盛りあがった。誰が発生源かは分からない。そのときは皆、健康そのものだった。結局、出席者の半分以上がかかっていた。ほかの人たちにうつさないように、えびおじさんたちは自宅での1週間の謹慎生活を言い渡された。
「いくつになっても魂が入らないやつだ」。えびじいさんが生きていたら怒られそうだ。戦争体験者は、同じような失敗を繰り返すことにことのほか厳しかった。ただ2度目の今回の症状は軽かった。熱もさほどきつくなくその期間も短かった。市販の検査キットで確認したのみで病院に行くわけでもなく薬も吞まなかった。去年の今ごろ1回目にかかったときの免疫が残っていたのかもしれない。ただし、喉がヒリヒリと最後まで痛かった。カラオケに影響するかもしれない、とは冗談である。
やはり家庭内隔離である。なにせ、えびおばさんはこれまで一度もコロナに罹っていない。必要なとき以外は近寄ってこないえびおばさんと対照的に、暑さにもかかわらずすり寄って来るベリーである。横になっているえびおじさんの足を枕に昼寝を決め込んでいる。
庭に目を移す。種子から育てた月桃が初めて花をつけている。数年前、月桃の花を奄美で見かけたとき、その姿に心ひかれた。そこで、ものは試しと鹿児島市に種子を持ち帰り鉢にまいてみた。すぐに芽が出てどんどん大きくなっていったが気候が合わないのか花が咲くまでには至らなかった。本土では無理かなと半ばあきらめていたところ、今年になって、ひと枝ながら初めて花を咲かせてくれた。「私を忘れないで」と言いたげだ。奄美では5月に満開を迎える月桃だが本土ではひと月以上遅れての開花である。言わば奄美二世だ。月桃は雨の似合う花である。ということは九州南部の梅雨明けはもうしばらく先ということだろうか。 <えびおじさん>
ベリー
奄美二世の月桃
その後、九州南部は7月17日(水)に梅雨明けしました。奄美は6月23日(日)にすでに梅雨明けしています。