粗野、頑丈にできているえびおじさんだが、遂にと言うべきか、やっぱりと言おうか、5月の終わりに新型コロナに罹(かか)ってしまった。これまで3年間、無事にやりおおせてきたのに、新型コロナが5月8日に5類に移行したことで油断してしまったようだ。確かに気持ちが少し緩んでいた。これまで、夜の飲食店に行くこともほとんどなかったのだが、一晩だけ、居酒屋の狭い部屋に9人でワイワイやってしまった。熱発したのは3日後のことである。屋外での作業を済ませた夕方、妙に熱っぽい。病院に行った。鼻に綿棒を差し込まれた。思わず腰を引く。新型コロナかインフルエンザかと結果を待った。
39度台の熱というのは久しぶりだ。歩くとふらふらする。なんだか宙に浮いている感じである。この熱が取り除けるものなら何も要らない、の気持ちだ。薬はあまり得意ではないが、病院でもらった喉の薬や自宅にあった解熱剤もきちんと服(の)んだ。薬同様に白湯(さゆ)を毎日何杯も何杯も呑んだ。民間療法だが、これもずいぶんと良かったような気がする。3日目にはほぼ平熱を取り戻した。しかし「腹は減っているが食欲は湧かない」といった妙なぐあいである。ビールを吞もうという気も起きない<そういう気持ち自体が不謹慎だとえびおばさんに怒られた>。おかげで肝臓はゆっくり骨休みだ。
周囲の人に感染させるといけないので1週間の外出禁止令である。平たく言えば、仕事やそのほかのこと、すべてうっちゃっての自由時間である。代わりに周囲の人にはずいぶんと迷惑をかけてしまった。家庭内隔離<家庭内別居ではない!>でもある。えびおばさんからは、マスクをちゃんとつけて手をきちんと洗うようにと何度も何度も厳しい指導を受けた。
テレビ、ラジオ、読書の1週間でもあった。いつにもましてテレビをよく見た。おかげで、えびおばさんバリに芸能界に少しは詳しくなった。一方、読書の方は、幾冊か本棚から取り出したが長続きしない。敷きっぱなしの布団の周りには本が散らばったまま。最後まで読んだのは、あるノンフィクション作家の「旅」に関する本である。地球を少しずつなぞっていくバスの1人旅は、布団の上で七転八倒するえびおじさんの気持ちをほぐしてくれる。
熱もひいたので、しばらくぶりにビールを口にした。ビールのうまさは健康のバロメーターと勝手に決めつけている。つまり、うまければ体調十分、まずければそれ以外である。結果は、まだビールは早いとのご託宣だった。
3年前の今ごろは、梅雨に入ればウイルスが雨で流されるとか、夏になれば強い日差しにウイルスは気絶してしまうとか、はたまた、鹿児島の人は桜島の降灰で喉が鍛えられているからウイルスごときに・・・・ 何の根拠もなかった。
思わぬ1週間の休養で髭(ひげ)が伸びてしまった。しみじみと鏡を眺めるとかなり白い。浦島太郎のようだ。1週間のうちに世の中はずいぶんと進んだのかもしれない。
<えび おじさん>
えびおじさんの庭で実った、虫食いのビワたち