2020-09-24
前回に引き続き、虫愛づる姫 R子さんによる第2弾である。
2日目の、8月11日の夜は、奄美在住のKさん(鹿児島昆虫同好会の会員)から「ナイター(灯火採集)」の誘いがあった。共通の知人であるNさんら数人にも声をかけ、宇検村の須古<すこ>集落での「ナイター」に参加した。
発電機を使い水銀灯を焚いて白布に光を当てていると、どこからともなく闇の中から次々と虫たちが集まってくる。しばらくすると「ハグルマヤママユ」という、奄美以南に生息する大型の蛾<が>が飛んできた。私は、カブトムシを見つけた子どものように嬉々として採集した。この場所は保護区域ではないため採集が可能である。奄美固有の蛾や甲虫<こうちゅう>がどんどん飛んでくる。仲間とそれらを眺めながら虫談義に興じた。至福のひとときである。
Nさんは、現地で「マングースバスターズ 兼 ナイトツアーガイド」の仕事をされている。話によれば、今や「マングース」は減って「野ネコ」が増えており、「アマミノクロウサギ」を捕らえる「害獣」となっているそうだ。そのため、Nさんは、今は「ニャンコバスターズ」と自称し、野ネコの駆除に力を入れているそうだ。さっそく、Nさんと仲良くなった宇検養殖場のMさんが、湯湾岳で見かけた野ネコ情報をタレ込んでいた(笑)。
「野ネコは害獣」であると書いたが、自然界におけるすべての生物にとって一番の敵は人間である。
人間は自分たちの生活をより良くするためにどんどん開発を進めていく。「生物多様性」といった言葉がある。すべての生き物たちは知恵を出して進化する中で、それぞれの関係性を築きながら、棲み分けを行い、種の保存に命をかけている。生態系はそうやって創られ守られていくべきものでありとても奥深いものだ。それをいとも簡単に破壊するのは人間なのである。苦労して何かを作り出すのも人間だが、安易に壊すのも人間である。人間が良かれと思って行う行為は、実は、そこに棲む生き物たちにとって脅威でしかないのだ。
島内をめぐると、本土では見かけないチョウたちが飛んでいる。年中咲いている「ハイビスカス」には「ツマベニチョウ」や「ナガサキアゲハ(奄美では白っぽいメスが多く見られる)」が次々と吸蜜に訪れている。足元を飛び回る「アオタテハモドキ」のオスの翅(はね)の、渋め、かつ、鮮やかなブルーは、ため息が出るほど美しい。
奄美の暑さは心地よい。日差しは痛いほどだが、じめっとした本土のアスファルトの熱気を思えば、奄美の暑さは、にこやかな微笑みのようだ。
奄美にはまだまだ人の手が入っていない原風景がたくさん残っている。わざわざ、都会から移り住んで来る人たちも多いと聞く。人の温かみに触れ、その土地に馴染みながら、自分の人生を楽しんでいける、そんな島なのだと思う。
奄美最後の夜は、瀬戸内町の西古見<にしこみ>の西端の岬にいた。夕陽が落ちて空が満天の星空となり、天の川がかかる素晴らしい夜空を眺めた。以前、えびおじさんが「潮風にも甘味がある」と話してくれたことがあった。吹き抜ける潮風はその通りだと思いながら、素敵な奄美時間を締めくくった。
鹿児島市に帰っても、「アカショウビン」のあの少し哀愁を帯びた鳴き声が耳に残っている。フワフワと舞うチョウたちの姿、穏やかな焼内湾の風景が目に焼きついている。またいつか奄美の風を感じに行きたい。<虫愛づる姫・R子>
どうしてそんなに虫が好きなのか、えびおじさんはR子さんに聞いてみた。
「虫の嫌いな人も多いが、よく見ると、小さな虫たちの大きな世界が広がっている。なぜ、そんな形をしているのか、なぜ、そんな色をしているのか、なぜ、そんな場所に棲んでいるのか。疑問がどんどん湧いてくる。個々の生態を知れば知るほど面白く、フィールドでは宝探しのような感覚になってしまう。」
探求心の尽きることのない女性である。えびおじさんは、以前から思っていた「蝶と蛾の違い」について聞いてみた。
「『蝶と蛾の違い』については、よく質問を受けるのですが、本当はあまり線引きは無いようです。ただ、生態にやや違いがあるようなので、蛾は蛾類として分類されます。
簡単に言えば、
蝶は昼、蛾は夜に飛ぶ。(昼間、活動する蛾もいるが・・・)
止まる時、蝶は翅を閉じて立てているが、蛾は開いたまま平たく止まる。
蝶の産卵は1つずつ。蛾は同じところに多数、というのが多い。もちろん、ひとつずつ産む蛾もいるし、なんと、飛びながら空中に撒き散らす蛾もいる。
一般的に毛虫と呼ばれるのは蛾の幼虫がほとんど。」
などなど、専門的な答が即座に返ってくるから恐れ入る。「人間世界では、夜の蝶が云々・・・」と、うっかり口を滑らそうものなら怒られそうだから、やめた、次第である。<文:えびおじさん>