2020-10-21
10月1日の中秋の名月はすばらしかった。例によって、宇検集落の知り合いのお宅の庭で、男たち4人、ビールを呑みながらの月見である。
午後8時頃、酒盛りはすでに焼酎に代わっている。雲ひとつない爽やかな空気の下、今かいまかと東の空を眺めている。空が徐々に明るくなって、山の稜線が少しずつ際だってくる。そして、まずは、露払いのように火星が昇ってきた。そして、火星に遅れることおよそ10分。この10分が待ち遠しい。念願叶ってデートにこぎつけた男がそわそわと女性を待っているような状態だ。男はいつの時代もいじらしい。女はいつもじらすのだ。焼酎片手に「お月さん、早く早く!」の掛け声まで飛び出した。こらえ性のない酔っ払いたちなのだ。
ようやく月がお出ましになった。月の方は、なんということもなく、今夜もやって来たよ、ということなのだろうが、名月を迎える人間の方は大騒ぎである。なにせ、昔から、地球の人間たちの月への憧れは並大抵ではないのだから。かぐや姫を登場させたり、うさぎ🐇に餅を搗(つ)かせたり、はたまたロケット🚀を飛ばしたりと、月へのアプローチは、科学者、文学者を問わず、絶え間ないのだ。中秋の名月ともなればなおさらである。
しかし、月が出てしまうと、酔っ払いたちは、ちょっとばかりおとなしくなった。やって来るまでは待ち遠しいが、明けてしまえばほっとする正月と同じなのか。しかし、しばらくすると、正月の酒の如く、にぎやかに回り始めた。
ちなみに、月に住んでいるのがアマミノクロウサギだったら、搗く餅は、月桃(げっとう)の葉っぱで包んだ、奄美のカシャ餅だろう。
今宵の名月は「まん丸さ」もさることながら、雲ひとつなく、風おだやかで、冷気さえ漂うという絶好の舞台設定だ。当然のことながら、ビール、焼酎、呑めればなんでも構わないという男たちのテンションは上がりっぱなしだ。無粋なオスプレイも今夜はやって来ない。
名月にふさわしい、めでたいできごとがひとつあった。宇検養殖の男性従業員が、このたび、かぐや姫を娶(めと)ることとなった。この表現は少し古いが、つまり結婚することになったのである。今夜のメンバーの1人なのだが、中秋の名月を意識したかのように、今日の昼のミーティングで、本人が照れくさそうに婚約発表をした。彼はスピードとテキパキとした仕事ぶりが身上だが、それにしても、つきあい始めてわずか3カ月足らず。芸能レポーターも気づかぬ早わざは快挙である。人生の大きなステップを踏むことになる。隣で呑んでいる本人はいつにも増して焼酎がうまそうである。物語の中のかぐや姫は男たちの高価なプレゼントに見向きもせず月に帰ってしまった。一方の宇検村の男はどんな甘い言葉で引き止めたのか・・・ 令和のかぐや姫は宇検村で末永く仲良く暮らしていくのであろう。 <文:えびおじさん>
追伸 2人は10月8日に入籍した。永遠(とわ)の語呂合わせだそうだ。「とわ」と言えば、えびおじさんたちには、男女の歌手のトワ・エ・モア (Toi et Moi )である。「あなたと私」を意味するフランス語だ。2人の門出を祝いたい。