台風10号が鹿児島に上陸し九州を縦断そして西日本を横断していった。
南の国の人間にとって、毎年やって来る台風は避けることはできず、生活の一部とも言える。突然発生する地震と違って台風は南の海から徐々にやって来る。虎視眈々と近づいてくる。人々は、台風がやって来る前に、雨戸を閉めたり庭の鉢を片づけたり、はたまた、窓ガラスにガムテープを張り付けて万が一の時にガラスが飛び散らないようにしたり、と、まるで祭りに向けての準備をするような気分である。この大きな異物に、ある種のエンターテインメント性を覚えて血が騒ぐのは台風銀座に暮らす人間の性(さが)だろうか。
はるか南にあっても台風の一挙手一投足が気にかかる。台風にはそれぞれに特徴がある。大型か小型か?「雨台風」だろうかそれとも「風台風」だろうか?そしていちばん神経をとがらすのが、台風は自分のいる場所の右側を通るか左側を通るかの進路予想である。台風は反時計回りに渦を描く。右側か左側かで風の強さは格段に異なる。右側の場合は、台風との距離や地形にもよるがソヨとした感じである。一方、左側を通過した場合、それこそ「グオーーーッ」である。小さなヤシの木がほぼ90度にしなるような光景を見たことがある。
当初の予報を大きく裏切って西進した台風10号はあれよあれよという間に奄美大島近海を通過し、鹿児島県本土に上陸したかと思うと不知火海に抜け、北部九州に再上陸。そのあとも迷走しながら西日本を横切っていった。この台風10号の、国際的な機関である「台風委員会」がつけた名称は香港から提案された「サンサン(女の子の名前)」だったようだが、寄り道大好きな「超おてんば娘」だった。
土砂崩れや冠水など全国のあちらこちらに被害をもたらした。さいわい養殖場は無事だったが、鹿児島県本土にあるえびおじさんの実家では大きな梅の木が風のため2本倒されてしまった。来年の収穫の楽しみが半減である。
台風に後日談はつきものだが、これは前日談と言うべきか。台風襲来の前の日、通りかかった住宅街ですさまじい夫婦ゲンカに遭遇したのである。
夫:「お前が△△△するからこうなるんだ・・・・怒怒怒」、妻:「あんたがやかましく言うから▲▲▲・・・・怒怒怒」なのである。これが、家の中でなく庭先でのケンカである。悪趣味ながら、離れた場所からじっと聞いていた。なにせ、聞くまいと思っても聞こえてくる大きな声なのである。どうも、台風襲来に向けての準備中に夫婦間で何らかのすれ違いがあったようで、15分くらいは続いただろうか。しかし、こんなにあたりかまわず開けっ広げな夫婦ゲンカは久しぶりである。そして、どちらが臆することもなく男女対等である。おおらかなハーモニーすら感じられた。まるで、落語に出てくる長屋の夫婦ゲンカ、それとも吉本新喜劇、もしくはイタリア・ミラノスカラ座のオペラだろうか。映画ならソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニが似合うかもしれない。
この夫婦ゲンカに気圧(けお)されて台風は逸(そ)れてくれるかもと期待したが、やっぱり来てしまった。でも台風の力は少しは減殺(げんさい)されたかもしれない。
もうしばらくは台風の季節である。おだやかな秋が早くやって来てほしい。<えびおじさん>