活車えび宇検養殖株式会社

宇検だより

パラダイス

2017-09-25

 

毎年この季節になると、奄美の集落では豊年祭が開かれる。宇検村には14の集落がある。週末になるとあちこちでにぎやかに始まる。

豊年祭というくらいだから、農村地帯にみられる五穀豊穣の祭りを想像しがちだが、海に面している宇検村の豊年祭は想像とかなり異なる。集落によってだが、敬老会と相撲の二本立てだ。この辺りにも昔は田んぼがあったというが、減反政策が始まってから、祭りも変わってしまったのだろうか。

各集落には、その中心部に必ず土俵がある。年一回行われる豊年祭のためのものだが、大相撲の国技館も顔負けの屋根つきの立派なものだ。土俵とその周囲が豊年祭の会場になる。

宇検集落の豊年祭は、今年は9月10日に開催された。天気にも恵まれた。初めに、集落の区長が、地域の守り神に祈りを奉げる。そして、新しく敬老会の仲間入りをした「新人」が紹介される。73歳以上が敬老会のメンバーだ。メンバーには土俵の前の特別席に座っていただき、演芸や相撲でひとときを楽しんでもらおうという寸法だ。

演芸が始まる。さまざまな出し物が繰り出される。

「宇検集落オリエンタルラジオ」の若者の面々が、舞台狭しと土俵上を踊りまくる。土俵の神聖さはどこへやら、だ。この数日間の練習の成果が如何なく発揮される。踊りがうまい。一昨年の「宇検集落エグザイル」もそうだったが、一糸乱れぬ踊りっぷりに脱帽だ。島唄の伝統に象徴されるように、この地には芸能のDNAが色濃く存在している。また、婦人部の若い皆さんによるステテコ踊り「俺ら、東京さ行くだ」は見ていてとても楽しかった。踊り手にとっては、人生最高最良(?)の思い出になったことだろう。

後半は相撲だ。この時期は、ちょうど大相撲秋場所と重なっている。けがや体調不良で休場力士が相次ぐ国技館に比べ、一人の欠場者もいない宇検集落場所のなんと充実していることか。大相撲の力士たちが口癖にしている「土俵への責任」とやらを、皆、果たしてくれた。近所の身近な力士たちの熱戦に敬老席からはヤンヤやんやの喝采だ。

世の中の娯楽のありようがずいぶんと変わってしまい、テレビや、最近ではスマホがその主役になって久しいが、豊年祭で繰り出されるパフォーマンスには、心底、客を楽しませようという素朴な気持ちが伝わってくる。演技者と客の距離がきわめて近い。それこそ土の匂いがする。

こういう光景を眺めていると、宇検集落は本当にパラダイスだなあと思う。パラダイスは、天国の意が強いが、敬老の場にはふさわしくないので、ここでは楽園としたい。宇検集落の人口は94人だが、この日は5割方膨らんだ。膨らんだ理由は、鹿児島市の「在鹿 宇検会」の皆さんが、豊年祭に合わせて、故郷に錦を飾ったことと、東京の駒澤大学の学生の皆さんが、フィールドワークの一環で来島し、参加してくれたことである。

男子学生は相撲に参加し、女子学生はオリジナルのダンスを披露してくれた。駒澤大学の学生の皆さんは昨年も参加した。今年も、前日の準備から、翌日の後片づけまで献身的に協力してくれた。引率の須山教授は「教室で学ぶ数十倍の勉強になった」とお礼を述べておられたが、感謝したいのはこちらも同様だ。都会の若者と宇検集落の交流は今後どういった実を結ぶのだろうか。

自然の豊かさもさることながら、そこにゆったりと暮らす人々がいる、そしてその人たちに会いたくてやって来る人たちがいる。そこに楽園の楽園たる所以があるのではなかろうか。夕ぐれどきになると、なんの花かは分からないが、南の国特有の甘い香りが漂ってくる。物語が始まりそうな気配がする。

     

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