活車えび宇検養殖株式会社

宇検だより

ふるさとの山 湯湾岳 ゆわんだけ

2020-04-13

テレビで「グレートレース」という番組をやっていた。世界各地の山や草原をノンストップで競争するという厳しいレースである。

選手たちは荒涼とした冬のイギリスの山々を、ぬかるみに転びながらも走っていく。何十キロも何百キロもである。ストーブに当たりながらノホホンと眺めているえびおじさんに比べてテレビの画面はなんと過酷なことか。えびおじさんの想像をはるかに超えている。

と、そこに「ペニゲント山 高さ694メートル」の字幕が入った。なにげなく見ていたが「694メートル」にひっかかるものがあった。「湯湾岳と同じ高さだ」。そう、奄美大島、宇検村の湯湾岳も694メートルなのだ。

一方は亜熱帯の木々がうっそうと茂る湯湾岳、もう片方は寒い地域に属し木々もまばらな山である。山の様子は限りなく異なる。たまたま、高さが同じということで関心を持ったが、ペニゲント山が700メートルだったらさほど気にしなかったかもしれない。694という同じ数字の偶然性に惹かれたのである。

その県を代表する山がある。たとえば、桜島は鹿児島県の代表・象徴として有名である。しかし、南北600キロメートルに及ぶ鹿児島県にはそれ以外にも多くの山がある。

鹿児島県の北部には「紫尾山 しびさん」という、桜島の高さに比肩する山がある。火山ではないが、山容も堂々たるものだ。桜島が冠雪しないときでも、ここは冠雪する。薩摩半島には、秀麗な「開聞岳」や「野間岳」などがある。そして、これは全国的にも有名だが、宮崎県境の「霧島連山」、大隅半島の「高隈山  たかくまやま」、島々に目を移せば、世界自然遺産で有名な屋久島の「宮之浦岳」、奄美大島の「湯湾岳」などがある。桜島が鹿児島を代表する「ふるさとの山」であるように、各地のこれらの山々は「もっと身近な」ふるさとの山だろう。

山は信仰の対象でもある。人々は初日の出を拝み、生活の中で親しんできた。うれしい時も悲しい時にも山があったに違いない。地域の行事の場にもなり、子どもたちの遠足の目的地でもある。ひょっとすると恋人たちのデートスポットかも知れない。

船乗りたちの航行の目印にもなり、特攻機は開聞岳に別れを告げた。

山は壁だったかもしれない。交通未発達の時代は、山の向こう側は遠い世界だった。おのずと、未知への探求心と想像力が膨らんだ。人々の原動力になった。

学校の校歌を眺めてみる。校歌には山がよく出てくる。その地域にどんな山があり、そしてその山がどれほど親しまれ愛されているかがよく分かる。身近な山を歌詞に取り入れることで、生徒たちの気持ちは高まる。先生たちは「あの山よりも高い理想を・・・」と子供たちを鼓舞する。山はシンボルであり「志」を支えるエンジンみたいなものだ。

さて、我らが霊峰「湯湾岳」である。高さがわずか694メートルと、1000メートルとか3000メートル級の山々に比べると見劣りするかもしれない。しかし、奄美大島の最高峰であり、どっしりと腰を下ろした姿はなかなかの偉容を誇る。焼内湾を見おろし、ふもとに清冽な水をもたらす。山の豊富な栄養分が海を潤す。魚たちはその恩恵に浴している。まさしく、海と山はつながっているのだ。数年前には、およそ100年ぶりに頂上付近で雪が降り、大人たちも喜んだ。人々は、湯湾岳を見上げて、日々、気持ちを新たにする。ふもとの学校の校歌にも名前が登場する。

湯湾岳は、奄美固有の稀少な生き物が生息していることでも知られている。

宇検養殖場の前門洋一(まえかど よういち)場長に訊いてみる。彼は生き物全般に詳しい。休みのたびに野や山に行き、昆虫類、鳥類、爬虫類、両生類、哺乳類などの動物 < つまりほとんど全部ということになるのだが。> との会話を楽しんでいる。また、関係機関から付与された「稀少な生き物を守るパトロール」のメンバーでもある。

彼の話では、奄美大島とその周辺の島々には、アマミノクロウサギを始めトゲネズミや日本最大のネズミ、ケナガネズミが棲んでいる。そして湿度が高いため、両生類の個体数も多い。オットンガエルや日本で一番美しいと言われるイシカワガエルなど、島でしか見られない固有種が多い。

奄美大島は、今夏、世界自然遺産の登録が期待されている。湯湾岳はその核ともいうべき存在である。そうなれば「奄美の湯湾岳」から「世界の Mt. Yuwan」になることだろう。兄弟分のペニゲント山も祝ってくれるに違いない。

<文:えびおじさん>

湯湾岳と焼内湾 (  ゆわんだけ やけうちわん  )

 

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