活車えび宇検養殖株式会社

宇検だより

老人と海・川畑くんとバショウカジキ

2019-10-24

ヘミングウェイの「老人と海」を読み返してみた。

年老いた漁師は長いあいだの不漁が続いていた。それでもめげることなく一人で小舟に乗り漁に出かけた。格闘の末、ようやく大物を釣り上げた。しかし舟にくくりつけていたマカジキは、港に帰り着くまでの三日三晩のあいだにサメに食い散らかされてしまう。自然の厳しさと、闘う男の心意気が感じられ、名作といわれる。

「老人と海」を思い出したのは、弊社の従業員の川畑 亮くんがバショウカジキを釣り上げたと聞いたからだ。これも「大格闘」だったらしい。川畑くんがその様子を話してくれた。

10月10日の朝。舟で焼内湾に釣りに出かけた。友人と2人である。晴れてはいたが台風が日本に接近していたため湾内でも風や波が少し荒い。お目当てはルアーを使ってのシビかスマガツオである。

開始5分で大きくヒットした。幸先良いと思っていたら、なんと、海面から大きくジャンプしたのである。その姿を見てびっくりした。テレビの釣り番組で見かけるバショウカジキだった。大きい。「揚げるのは無理だ」と思った。しかし、こんなチャンスは生涯やってこないだろう。気を取りなおす。

仕かけは細めのリールに小さな竿だ。リールが切れないか。また、近くにはマグロの養殖の生け簀がある。生け簀の周りのロープに入り込まないか。

バショウカジキは頻繁にジャンプする。怖いくらいだ。引く。重い。手前に寄せても走られる。駆け引きを何度もなんども繰り返す。30分経った。ようやく、弱ってきた。

これまでの釣りでは考えられない夢のような時間だった。とらえたバショウカジキの大きさは2.5メートル、重さは量らなかったものの、およそ50キログラムくらいだろうか。ビルと呼ばれる、鋭く伸びた上顎(あご)があり、これで獲物を刺すという。まかり間違えばという場面も想像された。

 

小説の中では、この魚はmarlin(マカジキ)である。翻訳ではどういうわけか、カジキマグロという名前の魚になっていたりする。こうなると、いかにもカジキのようなマグロということになってしまう。それでは、と、えびおじさんがパソコンで調べてみると、カジキマグロという魚はいないそうだ。マグロはサバ科。カジキはマカジキ科とメカジキ科の2つの科からなりマグロとは別の種類だとか。カジキがマグロに似ておいしいということから、消費者が、ひいては漁業関係者までも混同して使っているとのことである。ちなみに、バショウカジキはマカジキ科に属する

川畑くんは身長180センチメートルの偉丈夫だが、並んでみると大きさが分かる。彼の身長をゆうに超える。いつもは外海にいるバショウカジキが台風の接近で内海にまぎれこんできたのだろう。小説には「9月は大きな魚がかかる月だ。」「ハリケーンの季節にハリケーンなしというのは、一年中で漁に一番いい時期なんだ。」とある。

川畑くんは記念にバショウカジキのビルを保存している。バショウカジキは漁協に持ち込んで、友人と1時間かけて捌いた。刺身にして近所の人や養殖場の同僚たちに海の幸をふるまったという。味は格別だったとの報告が私にも届いた。残念ながらその時は宇検村にいなかった。人づてに聞いた旨いものの話ほど口惜しいものはない。まことに味気ない。テレビのグルメ番組のようだ。せめて写真だけでも拝ませてもらいたい。  (文:えびおじさん)

追伸

えびおじさんがこの原稿を書いていると鹿児島市の友人から電話が鳴った。居酒屋で呑んでいるらしい。焼酎のつまみは何かと問うと「秋太郎の刺身」と応じる。偶然というべきか。秋太郎はバショウカジキの鹿児島での呼び方なのである。旨いもの、旬のものに貪欲な友人は、親切にも秋太郎の刺身のグルメリポートを電話で伝えてくれた。「オレンジがかった身とモロモロとした不思議な食感と濃い旨味が他の魚にはないのだ!」と。「モロモロとした」とは一体どんな食感なのだろう。想像するしかないが、言葉で言い尽くせないぐらい旨いということなのだろう。また悔しい思いをした。

居酒屋の主人の話では、秋の訪れを告げると言われる秋太郎が今年は不漁らしい。地球の温暖化による海の高水温が影響しているのだろうか。

 

 

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