活車えび宇検養殖株式会社

宇検だより

アヒージョ

2019-01-16

この正月、えびおじさんは、えびおばさん(妻)と協働で「アヒージョ」なるものを作ってみた。最近ようやく耳に馴染んできたが、アヒージョとは、ニンニクや魚介類を使ったスペインの代表的な小皿料理らしい。

当然というべきか、私が挑戦したのは「車えびのアヒージョ」である。

調理すると言っても、私の役割はえびの殻を剥(む)く簡単な仕事である。背ワタを、背中からつまようじで取り出し、頭としっぽを残して殻を剥いていくのだ。

残念ながら、それ以上のことには加わらせてもらえず、やむなくビールを呑みながら完成を待つこととなった。昼間からビールを堂々と呑めるのはお盆と正月と祭りのときくらいだ。休日にも呑むことはあるが、さすがに、夕暮れに近い時間からだ。大相撲中継の観戦の気分を盛り上げるためのものである。そんなに生真面目なえびおじさんではないのだが、昼のアルコールにはわずかながら背徳感がつきまとうのである。

話は大いにそれるが、私の小さい頃(昭和30年代 今から50年以上も前のこと)は、鹿児島の田舎ではビールは、貴重品といったような存在だった。

私は、父親に命じられ、1キロほど離れた万屋(よろずや)に、焼酎を買いによく行った。田んぼの中の道を、一升瓶を自転車にくくりつけて、である。子供だったので、今のコンビニなら、年齢認証ではじかれるところだ。あやふやな記憶ながら、そのころ、焼酎の一升瓶が300円台だったように覚えている。今は、その6~7倍くらいだろうか。

焼酎は、ほぼ休みの日ごとに買いに行かされたが、不思議なことにビールを頼まれた記憶があまりない。今となっては信じられないが、そのころのビールは高嶺の花(?)で、鹿児島が焼酎王国ということもあったのだろうが、私たちの田舎では今ほど一般的な存在ではなかった。そして、万屋(よろずや)には、冷やしてないビールが多かった。冷蔵庫自体がまだまだ珍しかったのだ。冷やしてあるものは「冷やし代」を取られたような気がする。5円くらいだったように記憶するが。

ときおり、父親の職場の同僚が集まっての宴会が我が家で開かれたが、そのときの「最初の一杯だけ」がビールだった。のちに枕詞になった「とりあえず」といったような軽い存在ではなく「特別な」一杯のビールだったのである。

えびおばさんの調理は進んでいる。

剥いた車えびを冷水でさっと洗う。そして、ニンニクを薄く切り、しめじの、石づき(きのこ類の軸の先の部分)を切り落とす。たっぷりのオリーブオイルに塩を小匙(こさじ)半分。香りが鮮烈なローズマリーを一枝載せて、ニンニクを中火で加熱する。ニンニクが香り立ったら車えびを入れる。あとは白ワインを少し。ひと煮立ちで火を止め、黒胡椒とパセリを投入する。

待つこと数分(インスタントラーメンの待ち時間風だが・・・)、ニンニクとオリーブオイル、そしてローズマリーや黒胡椒の醸す香りが狭い部屋に満ちてきた。

う~ん、まるで、スペインの港町の小さな料理店にいるようだ(スペインは行ったことはない、もちろん港町にも・・・)。この香りにそそられる。ビールはまだ冷蔵庫にあっただろうか。匂いや香りは過去のことを思い起こさせてくれるが、私の場合、行ったことのない異国にまで連れて行ってくれる。

出来上がったものを食べてみると、これがまた美味い。素材の勝利か。いやいや、「素材」「調理技術」「食べる人の品の良さ」、この3つが揃っての、いわば三位一体(さんみいったい)の風情なのである。隣から「俺を忘れていないか?」とビールが不満げである。そうそう、ビールが果たした役割は大きい。「とりあえずビール」のレベルではなく、最後までビールがお似合いの取り合わせである。

自分たちだけではもったいないと、「車えびアヒージョ」を携えて近所の親戚宅での新年会となった。さまざまに並べられた料理群のなかでも、わが「車えびアヒージョ」はまったく遜色(そんしょく)はなかった。車えびの赤の色合いもいい。今後は、わが家の料理として大いに論陣(?)を張ることになりそうだ。武骨なえびおじさんとカタカナのメニュー。このアンバランスな組み合わせが親戚中の話題であった。大半の作業を担ったえびおばさんから「食べる時は、箸ではなくフォークを使って欲しい」という注文はついたが、小さいながらも新しいことに挑戦した、妙に充実の正月である。「いくつになってもチャレンジ精神を持とう。」今年の正月の心構えである。

車えびを使った料理の種類は世界中に星の数ほどあるらしい。寡聞(かぶん)にして数種類しか知らなかった。これまでは、「天ぷらにして奄美の塩で食べる」のが一番と思っていたが、これからは、洋の東西の番付表を作って、並べてみることにしよう。もちろん「天ぷら&奄美の塩」が東の横綱、「アヒージョ」は西の横綱である。だが、大関クラスや関脇、小結が見当たらない。まだまだ、新人発掘に勤しまなければならない。

(文:えびおじさん)

力作(?)のアヒージョ

 

 

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