活車えび宇検養殖株式会社

宇検だより

きばいやんせ

2018-06-27

 

 

 

 

「やってみなはれ」。高名な実業家の残した有名な言葉である。決して命令形の「やりなはれ」ではない。この実業家は従業員からの企画や提案をことのほか喜んだという。そういう時の言葉だろう。「やってみてごらん、何ごともやってみないとわからない。だめだったら、またトライすればいいじゃないか」。真剣な中にも挑戦を楽しむ気風が感じられる。トップのこの言葉にあと押しされて、従業員たちは旺盛なチャレンジ精神を発揮した。新商品を開発して新しい事業の柱を作り社業は大いに発展した。この会社の発展ぶりは現在も進行形である。社風になっている。

「やってみなはれ」とは少し異なるが、鹿児島に「きばいやんせ」という言い方がある。もとの言葉は「きばる」である。文字通り「頑張る」のことで、「きばいやんせ」は「がんばりなさい」の意である。鹿児島出身の歌手も歌っている。応援の言葉である。「やってみなはれ」と同じように「きばいやんせ」も「きばれ」といった命令口調ではない。あと押しするとでもいうのか、ゆったりと包み込むようだ。「やってみなはれ」と同じような気分がある。この言葉に後押しされて、多くの若者が世の荒波に漕ぎ出していったのだろう。

「きばいやんせ」の思い出がある。若い頃、まだ20代だった。職場の先輩に連れられて、ある方のお宅を訪ねた。その方は鹿児島の医学界の泰斗(たいと)で地域医療に大きな功績を残しておられた。おいそれとお会いできる方ではない。
70代の穏やかな方だった。用が済んで、おいとますることになった。門まで見送ってくださった。そのとき、私に「堀之内さん、きばいやんせ」と静かにおっしゃった。鹿児島医学界の第一人者ということもあって緊張していた私は、ただ「ありがとうございます」と応えることしかできなかった。40年経った今でも、そのときの光景が目に焼きついている。海のものとも山のものとも、どこの馬の骨とも分からない若造を励ましてくださった。それは、何をがんばれということでもなく、人生をまるごとがんばれというエールだったと思う。「きばいやんせ」の言葉をいただいたにも関わらず、いまだに何ひとつ為し得ていないのは、我ながら情けない。まだ「きばいやんせ」なのである。

「きばいやんせ」の言葉そのものもそうだが、この方は口調が静かで穏やかだった。実業家の口調や表情はどうだったのだろうか。聞いてみたかった。おそらく、慈愛に満ちた、わが子を諭すようなトーンの言葉だったのだろう。人は、穏やかな声で言われると素直に耳を傾ける。中身も印象に残る。厳しい言葉ほど穏やかさが大切だ。厳しい言葉を激しい口調で言われると、聞かされる方は堪らない。何も聴いてはいない。聞いてはいても聴いていない。早く終わってくれと、そればかりだ。頭の中は「怨」と「鎮魂」が渦巻いている。

サッカーのワールドカップが始まった。「ニッポン きばいやんせ」だ。これは大きな声で言わないと、ロシアまで届かないだろう。
(文:堀之内)

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